外国人社員が日本で銀行口座を開設した後、次に直面する大きなハードルが「本国からの資金移動(海外送金)」です。アパートの初期費用、家具の購入、初任給が出るまでの生活費など、赴任初期にはまとまった資金が必要になります。
しかし、社員が本国の銀行から日本の銀行へ昔ながらの「国際送金(SWIFT)」を行うと、高額な手数料を引かれるだけでなく、日本の銀行のコンプライアンスの壁に阻まれ、数週間にわたって資金が凍結される事態が頻発します。本記事では、理不尽なコストとタイムラグを完全に排除し、安全に資金を受け取るための代替インフラ「Wise(旧TransferWise)」の活用手順を客観的に解説します。
1. 従来の「SWIFT送金」に潜む高額コストと資金凍結の罠
【サマリー】国際銀行間の送金網(SWIFT)は中継手数料が不透明であり、日本の銀行での着金時に「マイナンバーの提出」を求められ資金が長期間ロックされます。
通常の銀行窓口を通じた海外送金は「SWIFT(国際銀行間通信協会)」のネットワークを使用します。この仕組みの最大の問題点は、複数のコルレス銀行(中継銀行)を経由するため、数千円の手数料が引かれる上、為替レートに「隠れマークアップ(銀行の利益分)」が上乗せされ、最終的な受取額が目減りすることです。
さらに深刻なのが、日本側での「着金時のストップ」です。日本の金融機関はマネーロンダリング対策として、海外からの着金(被仕向送金)があった際、受取人に対して「マイナンバー(個人番号)」の提出と、資金の利用目的の申告を厳格に求めます。
赴任直後の社員は、役所で手続きをしてからマイナンバーカード(または通知書類)が手元に届くまでに3〜4週間かかります。つまり、SWIFTで送金してしまうと、「マイナンバーが提出できるまで、日本の銀行側で資金が数週間保留(凍結)される」という致命的なタイムラグが発生するのです。
2. 最短・最安を実現する「Wise」の国内送金メカニズム
【サマリー】Wiseは国境を越えてお金を移動させず、各国内のプール資金から「国内送金」を行うため、最安の実際為替レートと即日着金を実現します。
このSWIFT送金の欠点を論理的に解消したのが、金融テクノロジー企業の「Wise」です。Wiseは実際には国境を越えてお金を移動させていません。
例えば、社員がアメリカの口座から日本の口座へ10万円分を送金する場合、社員はアメリカ国内にある「Wiseの米国口座」へドルを振り込みます。それと同時に、日本国内にある「Wiseの日本口座」から、社員が開設した日本の銀行口座へ10万円が振り込まれます。
国境を越えるのは「送金指示のデータ」のみであり、資金の流れは完全に「日本国内の銀行振込(国内送金)」として処理されます。これにより、隠れコストのないミッドマーケットレート(実際の為替レート)が適用され、数日かかっていた送金が最短即日〜翌日で完了します。
3. 着金凍結を回避するための3つの設定手順
【サマリー】国内送金として処理されるため、日本の銀行側での「マイナンバー提出」による凍結を完全に回避できます。赴任前にアカウントを作成させます。
人事担当者は、社員が本国を出発する前の段階で、以下の手順を案内し、初期費用の移動ルートを確保しておく必要があります。
- 手順1:赴任前に本国で「Wiseアカウント」を作成する
日本に到着してからアカウントを作成すると、日本の住所確認やマイナンバーの登録が求められる場合があります。必ず出国前に、本国の住所と身分証明書を使ってアカウントを作成し、本国の銀行口座と紐付けさせておきます。 - 手順2:日本到着後、日本の銀行口座を開設する
過去の記事で解説した手順に従い、ゆうちょ銀行やネット銀行で日本の口座を開設します。 - 手順3:Wiseアプリから「日本の自分の口座」へ送金を実行する
Wiseアプリを開き、送金先に新しく開設した日本の口座を指定して送金を実行します。日本の銀行口座には、海外からの国際送金ではなく「Wise Payments Japan(ワイズ・ペイメンツ・ジャパン)」からの国内振込として着金します。これにより、マイナンバー提出を待たずに、即座に資金を引き出すことが可能になります。
4. 実務的Q&A(人事担当者が知るべき送金トラブル)
【サマリー】大口送金時の上限額や、日本から本国へ送金(仕向送金)する際の違いに関する実務上の疑問に回答します。
Q. 家族での赴任のため、数百万円単位の初期費用を送金したいそうです。Wiseで対応可能ですか?
A. 送金元(本国)の通貨や規制によりますが、日本側(受取)の規制として、資金移動業者のアカウントを利用した1回の送金上限額は原則100万円に設定されているケースが多いです(国によって異なります)。100万円を超える高額送金の場合は、数回に分けて送金するか、時間はかかってもSWIFT送金を利用し、マイナンバーが手元に届いてから着金手続きを行うアプローチへの切り替えが必要です。
Q. 逆に、日本で受け取った給与を、本国の家族へ毎月仕送り(送金)したい場合はどうなりますか?
A. 日本から海外への送金(仕向送金)にWiseを利用する場合、日本の法律に基づき、Wiseのシステム上で「日本のマイナンバー」による本人確認が1回だけ必須となります。したがって、マイナンバーカード(またはマイナンバー付きの住民票)を取得するまでは、日本からの送金は開始できません。役所での手続きが完了次第、Wiseアプリでマイナンバー認証を行うよう指導してください。
結論:金融の摩擦は「最新のインフラ」で排除する
日本の金融機関のコンプライアンスは年々厳格化しており、「昔は普通に送金できた」という経験則は一切通用しません。資金が数週間凍結される事態は、社員の生活を脅かすだけでなく、会社への不信感にも直結します。人事担当者は、従来のSWIFT送金の欠点を理解し、Wiseのような合理的で透明性の高い金融テクノロジーの活用を、赴任前の必須プロセスとして組み込んでください。